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狂乱廿四孝:感想 [タイトル:か行]

北森鴻『狂乱廿四孝』, 角川書店

狂乱廿四孝 (角川文庫) 北森氏のデビュー作で、第6回鮎川哲也賞を受賞した歴史ミステリ。

原書の東京創元社版の方がデザインが良かったのだが絶版。現在入手しやすいのは角川文庫版で、こちらには本作の原型となった未発表作品(本編読了後にどうぞ)が収録されている。

 明治初頭、活気と昏らさが混在する歌舞伎の世界を舞台に、病を得ながら芝居に執着する当代一の女形田之助の周囲で立て続けに事件が起こる。
その引き金となったと思われる、河鍋狂斎が描いた一枚の幽霊画に隠された秘密とは。刮目して見よ。

 歌舞伎という素材を良く活かしたミステリになっている。
個人的には、歴史上の実在の人物が幾人も登場する点も好みである。
 デビュー作にしては十分達者で、以降の作品も期待して読みたくなるだろう。

 光の加減に応じて左右の瞳の色を違えて書いているところへ持ってきて、目元に浮かんだ怨みの念が恐ろしく写実的で、見るものの背中をゾクリとなで上げる。…中略…狂斎のこの絵は、人が心の中に持つ罪悪感を幾層倍にもふくらませて、苦しめるようだ。(東京創元社版, p.35)


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架空の王国:感想 [タイトル:か行]

高野史緒 『架空の王国』, ブッキング

架空の王国 (fukkan.com) 皇太子、事件、歴史、王国の秘密・・・といったワードに琴線が触れるなら是非おすすめ。
 ヨーロッパにあるボーヴァルという架空の国を舞台にしている、いわゆるルリタニアテーマ(by田中芳樹)。
 青い表紙が美しい中央公論社版は残念ながら絶版だが、fukkan.comにより復刊版が出ている。(復刊版には短編が追加されているのでお得かもしれない)


 日本人学生の瑠花は、ボーヴァルに着いて早々、師事を希望していた教授が亡くなった事件に巻き込まれる。
瑠花と助教授のルメイエールが事件の真相を追ううちに、現在の事件と、王国の古い歴史とが絡み合う。
果たして、隠された真実とは。

 重すぎず、軽すぎず、ちょうど良い分量と物語である。内容がしっかりとあり、かつ丁寧な文章ながらも、コミカルな場面もある。
事件を追う合間に交わされる、瑠花とルメイエールの会話には、ウィットと歴史への愛があり、ほほえましい。

 歴史って、年表を暗記することではない。
残された史料の破片から、昔の人々の姿や生活をすくい上げ、それらに寄り添い耳を傾けること。
 ボーヴァル王国サンルイ大学図書館がうらやましい。歴史ある重厚かつ繊細な建物、手触りを想像したくなる革張りの本たち。

 作者がフランス史専攻だったおかげか、建物や街角、季節の描写が美しくかつ現実味があり、瑠花と一緒にボーヴァルを歩いてみたくなる。
下手なファンタジーにありがちな、表現だけが上滑りして、ちっとも実物を感じられない、という筆力とはまったく違う。


国境はあるからこそ面白いんだ。アメリカ人がヨコヅナになったって、ロシア人がタンゴを作曲したって、別にいいじゃないか。それは恋をするようなものだ。誰にも止められない。(中央公論社版, p.245)


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