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架空の王国:感想 [タイトル:か行]

高野史緒 『架空の王国』, ブッキング

架空の王国 (fukkan.com) 皇太子、事件、歴史、王国の秘密・・・といったワードに琴線が触れるなら是非おすすめ。
 ヨーロッパにあるボーヴァルという架空の国を舞台にしている、いわゆるルリタニアテーマ(by田中芳樹)。
 青い表紙が美しい中央公論社版は残念ながら絶版だが、fukkan.comにより復刊版が出ている。(復刊版には短編が追加されているのでお得かもしれない)


 日本人学生の瑠花は、ボーヴァルに着いて早々、師事を希望していた教授が亡くなった事件に巻き込まれる。
瑠花と助教授のルメイエールが事件の真相を追ううちに、現在の事件と、王国の古い歴史とが絡み合う。
果たして、隠された真実とは。

 重すぎず、軽すぎず、ちょうど良い分量と物語である。内容がしっかりとあり、かつ丁寧な文章ながらも、コミカルな場面もある。
事件を追う合間に交わされる、瑠花とルメイエールの会話には、ウィットと歴史への愛があり、ほほえましい。

 歴史って、年表を暗記することではない。
残された史料の破片から、昔の人々の姿や生活をすくい上げ、それらに寄り添い耳を傾けること。
 ボーヴァル王国サンルイ大学図書館がうらやましい。歴史ある重厚かつ繊細な建物、手触りを想像したくなる革張りの本たち。

 作者がフランス史専攻だったおかげか、建物や街角、季節の描写が美しくかつ現実味があり、瑠花と一緒にボーヴァルを歩いてみたくなる。
下手なファンタジーにありがちな、表現だけが上滑りして、ちっとも実物を感じられない、という筆力とはまったく違う。


国境はあるからこそ面白いんだ。アメリカ人がヨコヅナになったって、ロシア人がタンゴを作曲したって、別にいいじゃないか。それは恋をするようなものだ。誰にも止められない。(中央公論社版, p.245)


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