嘘つきアーニャの真っ赤な真実:感想 [タイトル:あ行]
米原万理 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』, 角川書店
ロシア語会議通訳者でもあった作者の巧妙な語り口が読みやすい。
単行本もあるが、持ち運びに便利な文庫版が良い。
作者は1960年代にプラハのソビエト学校に通っていた。
少女マリと、個性的な友人たちとの、ユニークなエピソード。
そこに無理なく挟み込まれる大人になった作者の視点により、当時の社会が語られる。
そして、三十年後のプラハを訪れた作者が知る、少女時代には見えなかった真実とは。
1960年代のプラハといえば、「プラハの春」前夜である。
何気ない生活を送る少女たちの背後にも、激動の足音が近づいていた。
慌しい、時代。
中・東欧は正直言ってなじみが薄く、教科書以上の知識は無かったが、この本を読んで、当時の雰囲気、人や街の空気が、とても身に迫ってきた。
ユーゴスラビアを愛しているというよりも愛着がある。国家としてではなくて、たくさんの友人、知人、隣人がいるでしょう。その人たちと一緒に築いている日常があるでしょう。(角川文庫版, p.291)