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十三番目の陪審員:感想 [タイトル:さ行]

芦辺拓 『十三番目の陪審員』,角川書店

十三番目の陪審員 (創元推理文庫)  弁護士・森江春策シリーズの6冊目。
シリーズの中では、陪審員制度復活後のパラレル日本を舞台にしている点で特殊である
(なお、当シリーズの2時間ドラマ化はミステリとしての出来がちょっと…)

 原書は角川書店発行だが、現在入手が容易なのは創元推理文庫版。

 DNA鑑定も犯人だと示す、圧倒的に不利な状況で容疑者として逮捕された男。彼の無実の主張を信じて弁護を引き受けるのは、森江春策だけだった。
 事件を調べるうちに、背後に隠された陰謀が浮かび上がる。
周到に用意された罠のすべてを乗り切る道はあるのか。
裁判の行方はどこへ、その時、陪審員たちの結論とは。

 美形でも皮肉屋でも親戚に警察高官がいるわけでもない森江弁護士は、一見頼りなくぱっとしない。しかし、無実の罪をかぶった依頼人を救うべく、必死に東奔西走する優しい名探偵だ。
 本作では、単純な真犯人探しが主眼ではない。
どうしようもない(かのような)状況を乗り切る方法と、それを成すための設定と伏線。
 読了後には、実際の日本社会にも思いを致すかもしれない。


「あの人を助ける道は、あの人を有罪にすること……破滅させる道は、無罪にすること……でも、どっちにしても奴らの思うつぼ……」(角川書店, p.317)


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The S.O.U.P.:感想 [タイトル:さ行]

川端 裕人 『The S.O.U.P.』, 角川書店

The S.O.U.P. (角川文庫)  インターネットを舞台にした、サイバー・クライシス小説。
初出の単行本は2001年の刊行で、日進月歩のネットの世界を描く小説にも関わらず、古さを感じさせない面白さ。
未知のテーマであっても理解できるだけの情報を読者に与えつつ、説明くささは無い。

 主人公は、オンライゲーム「The S.O.U.P.」の開発者として知られていたが、現在は、セキュリティ関連のコンサルタントをしている(引きこもりのコンピューターオタクとも言える)。
 しかし、ある日訪れた経産省の役人からの依頼をきっかけに、かつて情熱を注いだ「The S.O.U.P.」の変質と、謎の集団EGGの存在を知る。
EGGを追う内に、ハッカー変死事件を追うFBIと交差し、世界規模のサイバーテロに巻き込まれ・・・。

 オンラインゲームにも、ネットワークにも不案内だが、面白かった。
単なる、凄腕ハッカーが活躍する話ではない。技術の根底にある思いや希望を描いている。
 さて、拡大した事件の結末どうなったのか。悪くない余韻である。

「ぼくはね、『世界』を創りたいんだ」光は身を乗り出した。「ほら、RPGの中には世界があるでしょう。その中で登場人物が、生まれ、成長し、死んでいく世界が。プレイしていて『世界』の広がりを感じられるようなRPGをつくりたいんだ」(角川文庫版, p.121)


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